早朝５時。
井波のまちの中心、
瑞泉寺までまっすぐのびる
石畳の八日町通り。
そんな早い時間にもかかわらず、
人がそろそろと集まる日があります。
３と８のつく日の
早朝５時から６時までの間、
八日町通りに入ってすぐにある
お蕎麦屋さんの軒先に
野菜や切り花が並びます。
野菜たちを生産し、
ここで売っているのは橋爪さん。
「もう４０年以上は来ているな」
と話してくれました。
瑞泉寺の門前町として栄えたこの場所。
元々、８のつく日に
市場が開かれていたことから
八日町通りの名前がつきました。
瑞泉寺のほうへ進み脇道に入ると
三日町通り、六日町通りもあり
同じように、その数字のつく日には
市場が開かれていました。
一日町通りはありませんが
毎月一日には、瑞泉寺で
市が立っていた時期もあったそう。
橋爪さんは今でも、３と８のつく日には
隣町である福野から野菜を運び、
ここにお店を出しています。
「自分のばあちゃんが、
ずっとここで出店していた。
自分が子どものころにも、
手伝いでたまに来ていたよ。
今年の初めごろまでは、向かい側で
俺と同じようにお店を出していたおばあさんがいたけど、
来られなくなってしまったから、今はもう俺ひとりだ」
かつては、１０軒以上の農家さんたちが
出店していたこともあったとか。
朝５時からの朝市。
本当にやっているのかと半信半疑ながらも
早起きしてのぞいてみたのは、今年の夏。
近所に暮らす常連さんが、ひとり、
またひとりとやってきました。
今朝はちょっと寝坊しちゃったわ、
と言いながら来た女性には
「あんたが来るまでは待ってるよ」と
笑いかける橋爪さん。
ナスを４かご、キュウリを３かご、と
袋いっぱいに買っていかれる方は
「次に来る５日後までのぶんを買っておかなきゃ」
と話し、毎日の生活にこの朝市が
根付いている様子が垣間見えました。
見たことのない野菜に
「これは何ですか？」と尋ねると
おいしい食べ方や調理法を教えてくれます。
ここで初めて知った金時草。
加賀野菜のひとつで、葉っぱの裏側が紫色。
教えてもらったとおり、ゆでて酢の物にしたら
夏にさっぱり食べるにはぴったりでした。
黄色や赤色のパプリカが
元々は普通のピーマンと同じように
緑色だと、ここで初めて知りました。
傷だらけのナスの理由は、前日の強風。
文字通り、採れたて新鮮の野菜が
かごに盛られています。
季節はだんだん秋に移り変わり、
日の出の時間もだんだん遅くなってきます。
「次からは開始を３０分遅らせて
５時半からにしてくれ、と
今日、常連さんに言ってたんだ。
野菜を並べるときの手元がだいぶ暗くなってきてな」
橋爪さんが来る日の朝には
出店する場所であるお蕎麦屋さんが
外灯をつけてくれているそうです。
夏の暑い日も、冬の寒い日も、
今もここには朝市が立ちます。
「来てくれる人が増えたら、そりゃ嬉しいな」
と表情をゆるませます。
八日町通りのその名前の由来が今も残る、
早朝の１時間。
ちょっとがんばって早起きして
のぞきに行ってみてはいかがでしょう。
文：松倉奈弓
写真：大木賢