井波には彫刻師のみならず、
木にかかわる匠が多く暮らしています。
井波にある「職人に弟子入りできる宿」Bed and Craftで
その匠たちをつなぐ、新しいサイクリングツアーが始まります。
ツアーを企画した、Bed and Craftのコンシェルジュ、
中臺 雅子さんに案内してもらいました。
「旅のなかで1番印象に残るものは、人。
誰と出会ったかでその旅の思い出がまったく変わってきます」
そう話す中臺さんが、ツアーを作るときに最も大切にしているのが
人と人との出会いの場をつくること。
「わたしが話すことだけを聞いてもらうのではなく
旅行者の方と、その土地に暮らす方とが
触れ合う機会を設けたくて。
そうして暮らしや文化を知ってもらい
『だからここってこういう場所なんだ』
と、参加する方には感じてほしいですね」
このツアーでは、井波にある銘木店、彫刻道具店、
そして彫刻師さんの工房を回ります。
回る場所の選び方にも、中臺さんのこだわりがありました。
「木彫刻のまちとして有名な井波は、
材料を手に入れ、製品として完成させるまでが
まちのなかで完結しています。
そのルートを『木のみちのり』と名づけました。
見どころを、ただ点として回るのではなく
それぞれの点にいる匠たちと触れ合い、
話を聞くことによって
点を線でつなぐことができます」
材料である木を手に入れる場所、
木を彫るための道具を調達する場所、
そして木彫刻の職人さんの工房。
木という共通項のある点を結びながら
体験をまじえてまちをめぐることで
彫刻についてだけでなく
なぜ木にまつわる匠たちが
ここに集まっているのかという
歴史的な背景もみえてきます。
「自転車で回れる範囲内に
その要所が点在しており、
参加者の方はご自身の足で
木のみちのりをたどることができます。
時間や立地など、ツアー実施のための諸条件を
すべて揃えるのは難しいんですが
コンパクトにすべてが集まっている
この土地の特徴もあってクリアしました」
さらに、図らずも中臺さんご自身のルーツと
今回の企画がぴたりと重なる部分があったそう。
「母方の実家が製材所だったんです。
わたしが生まれたすぐ後に、その製材所は
廃業していましたが、祖母がよくその製材所での
仕事の話をしていたことを思い出して」
中臺さんは京都のご出身。
その製材所は桂川のほとりにあり、
桂川の流れをつかって木を運搬していたと
おばあさまから聞いた話は、
飛騨や五箇山からの木を運ぶための
井波のすぐ近くの庄川が「川の道」として
かつては機能していた話とつながりました。
ツアーは脚本のない生のドラマのようだと中臺さんは喩えます。
「きっちり台本を作ってしまうのではなく余白を残し、
地域の方、参加する方、それぞれの
反応を見ながら調整していく。
過度な演出をする必要はもちろんありませんが
きちんと魅力が伝わるよう
ディレクションするのがわたしの役割ですね。
参加者の方が異なれば、
訪問した先の方々の反応も毎回異なります。
一期一会なので、毎回とても楽しいです」
実際、今回の取材で各所をめぐるなかで
おもしろい偶然が起こりました。
最初に訪れた銘木店店主の方の話に出てきた、
ノミ切れという耳慣れない言葉。
まったく同じ言葉が、最後に訪れた工房の
彫刻師さんの話にも出てきました。
「ノミ切れがよい」と判断される木彫作品をつくるには、
すべての条件がそろうことが必要といいます。
・いい状態の木を使っているか
=木を選び、製材する匠
・道具がきちんと手入れされているか
=道具をつくり、メンテナンスする匠
・ツヤが出る方向に彫られているか
=木目を読み、道具を使う匠
まさに、すべての点が一本の線でつながった瞬間でした。
ただ自分で歩くだけではわからないことを
ツアーを通して知ってもらいたい。
木のみちのりをたどった後、
今度は自ら木を選び、道具を選び
ほしいものを自分でつくる。
あるいは職人さんと一緒につくっていく。
これからもまちとのつながりをむすぶ、
最初のきっかけにもなってほしい。
中臺さんの想いが込められたツアー、
井波に宿泊する際には、ぜひご参加ください。
ツアー詳細はこちらからご覧いただけます。
※ツアーはBED AND CRAFTに宿泊した方がお申込みできます。
単体ではご参加いただけませんのでご了承ください。
文:松倉奈弓
写真:大木賢