食べる彫刻。
言葉の組み合わせに違和感をおぼえるのと同時に、
いったいどういうものなのか?と気にならずにはいられません。
井波を味わう、食べる彫刻クッキー。
クッキーの型は、井波の木彫刻家、
加茂 薫さんによってつくられています。
クッキーの外枠をくり抜く、抜き型と、
表面に文様をつけるための型。
2つで一組の型。
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クッキーのかたちは4種類。
まずはデザイン制作から始まりました。
春の蘭、
夏の竹、
秋の菊、
そして冬の梅。
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すべて、井波彫刻の欄間でもよく使われるモチーフ。
四種の植物を総称して、四君子と呼ばれています。
君子とは、中国語で徳と学識を備えた人のこと。
その気品と風格のあるたたずまいを称え、
また四季をあらわす題材として用いられています。
「なるべく欄間の図案から
デザインをしたいという思いがありました。
ただ、デザイン化しすぎてしまうと
そのものとは言えなくなってしまう。
その塩梅がむずかしかったですね」
![](https://kinomi-store.com/wp-content/uploads/2020/06/200608_KINOMI_132420-1024x684.jpg)
4つの中で特に形を決めるのが難しかったと
薫さんが話すのは、春蘭。
欄間の図案をそのまま使うと、
3枚あるその花弁が細いため
クッキーにするとポキっと折れてしまう。
細長いその形を、ほか3つのクッキーのサイズ感と
合わせるため、本来の形と比べるとかなり膨らませました。
縮小や拡大を繰り返し、今のこの形に落ち着いたそう。
![](https://kinomi-store.com/wp-content/uploads/2020/06/200424_KINOMI_131039-1024x684.jpg)
デザイン化のアイディアを練るために
家紋の本も参考にしつつも、
より重きを置いたのは
井波彫刻の「欄間らしさ」を
いかに落とし込めるかということ。
同じく彫刻家である、お父さまやおじいさまが作られた
欄間の写真をいくつも見返して、完成したデザインです。
![](https://kinomi-store.com/wp-content/uploads/2020/06/200608_KINOMI_133039-1024x684.jpg)
デザインが決まったら、木型づくりに入ります。
木型の素材に選んだのは桜の木。
「桜は、硬くて割れにくく、耐久性があります。
目が詰まっているので、そこまで水も吸いません」
![](https://kinomi-store.com/wp-content/uploads/2020/06/200424_KINOMI_144803-684x1024.jpg)
練り切りや干菓子の型などを始め、和菓子づくりの
道具としても、桜の木がよく用いられています。
ただ、その硬さという特性ゆえに苦労もしたこともあったそうで。
「わたし自身、今まであまり桜を彫ってこなかったこともあり、
『こんなに硬いのか』とびっくりしました。
やわらかい木であれば、内側をそのままきれいにくり抜いて
使うこともできますが、桜だとそうはいかず、
内側の木型は改めて一からつくりました」
![](https://kinomi-store.com/wp-content/uploads/2020/06/200425_KINOMI_151713-1024x684.jpg)
クッキー生地と接する部分は、1ミリもないほどの薄さ。
硬い木をそこまで彫り落とし、
一定の厚みに仕上げるのはかなりの労力。
![](https://kinomi-store.com/wp-content/uploads/2020/06/200425_KINOMI_152137-1024x684.jpg)
「特に、クッキー生地に跡をつける内側の型は
鈍角に彫ってしまうと、模様がつぶれてしまいます。
型がきちんと抜けるように、
そしてきれいに模様が出るようにと考えて制作しました」
デザインに悩んだのは春蘭ですが
彫るのは菊と竹が大変だったと薫さんは振り返ります。
使った彫刻刀を見せてもらうと、あまり見慣れない
カッターのような斜め状の刃の彫刻刀、小刀や
まがりと呼ばれる、刃の首が曲がった彫刻刀。
![](https://kinomi-store.com/wp-content/uploads/2020/06/200608_KINOMI_131339-1024x684.jpg)
「木には、ならい目と言って、きれいに艶があがる方向があります。
触ったときに手に木目が引っかからず
すべすべしているほうが『ならい目』、
反対に、ざらざらしているほうは『逆目(さかめ)』です。
木彫はならい目に沿って彫るのが基本なので
刃が曲がっていないと彫れない部分がどうしてもあって。
そういうときに、このまがりを使うと
そのならい目に沿って刃を入れられるんです」
![](https://kinomi-store.com/wp-content/uploads/2020/06/200608_KINOMI_131419-1024x684.jpg)
小刀も、ならい目に沿って彫れるよう
刃の向きが左右異なるものを対に揃えています。
数百本ものノミや彫刻刀を使い分けてつくられる井波彫刻。
その技術は、これまでは主に欄間や置物など
「見る」作品に発揮されてきました。
もちろん、その作品は触ることはできます。
鼻を近づけると、木の匂いも感じられます。
井波のまちを歩くと、あちこちにある彫刻工房から
ノミをたたく音も聞こえます。
視覚、触覚、嗅覚、聴覚。
そこに今回、味覚が仲間入りすることにより、
五感すべてを使って井波彫刻を楽しめるようになりました。
彫刻を食べる。
伝統工芸の技術を使った、新たな味わい方です。
![](https://kinomi-store.com/wp-content/uploads/2020/06/200609_KINOMI_165156-1024x684.jpg)
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文:松倉奈弓
写真:大木賢