新しい年神さまへのお供えもの、鏡餅。
お正月を迎える季節を楽しむために。
毎年飾れる、木の鏡餅を紹介します。
制作したのは井波の木彫刻家、田中孝明さん。
![](https://kinomi-store.com/wp-content/uploads/2019/12/191210_KINOMI_4001-1024x684.jpg)
この鏡餅、1本の四角い木材から彫り出され、
お餅、ダイダイ、葉っぱまで、なんとすべてつながっています。
まず旋盤という機械を使っておおよその形を出した後、
ノミに持ち替えてひたすら彫り出すそう。
![](https://kinomi-store.com/wp-content/uploads/2020/01/191127_KINOMI_0015-1024x684.jpg)
離れて見るとまるい輪郭ですが、
近くで見るとごつごつしています。
よく見ると、お餅の表面には六角形のたくさんのノミ跡。
「六角形はもっと綺麗に並べようと思うと並べられるけど、
あえてランダムにしています。
綺麗にけずると、木彫ではないように見えてしまうんです。
もっとリアルに彫り、もっと餅を餅らしくすることもできる。
でもそれをしてしまうと、木彫でなくてもいいのかなと。
どこで止めるかは難しいけど、
やっぱりこのぽこっとした感じにするには、
ちょっと途中じゃないか?
と思われるくらいにノミ跡を残し、
木彫の感じを残せたらいいなと。」
![](https://kinomi-store.com/wp-content/uploads/2019/12/191210_KINOMI_3997-1024x684.jpg)
ダイダイはお餅に比べて細かく彫られ、
葉っぱはノミ跡がほとんど分からないほど。
この鏡餅を作るのに使うノミの本数は、10~15本。
ひとつの鏡餅の中、あちこちに細かい変化がつけられていて、
よくよく見ないとすべてつながっているようには見えません。
![](https://kinomi-store.com/wp-content/uploads/2019/12/191210_KINOMI_3995-1024x684.jpg)
「餅とダイダイがくっついていると面白くないので、
境目をどこまで削れるかはとても気を遣うところ。
刃をつっこみ鋭角にけずると餅から離れては見えるけど、
後で奥にたまった木っ端が取れなくなってしまうから、
それが取れるところでやめておかないと
仕上がったときに綺麗に見えないんです。」
そして、その境目に気を遣うのは彫るときだけではないそうで。
![](https://kinomi-store.com/wp-content/uploads/2020/01/191210_KINOMI_4003-819x1024.jpg)
「色を塗るときに、境目があんまり深いとハケが届かなくなってしまうので、
ちょうどいいところの見極めはとても重要。」
色の塗り方にもこだわり、
お餅の部分はしっかり塗られている反面、
ダイダイと葉っぱは木目が分かるほど薄い色づけ。
![](https://kinomi-store.com/wp-content/uploads/2019/11/191127_KINOMI_3769-1024x684.jpg)
「餅の部分も木目が出る塗り方を試したけど、
あまり綺麗に見えなかったのでしっかり目に着色しました。
仕上げにはミツロウを塗り、彫りの感じを強調しています。
布で拭くようにミツロウを塗ることによって、
彫った頂点にミツロウがつき、
角がキラキラしているように見えるんです。」
お話を伺うなかで制作当初の鏡餅の写真を拝見したら、
ノミ跡、そして形がだんだんすっきりとしていく変化が見て取れました。
特に最初のものは、お餅部分がやや大きくポテっとした印象でした。
「作った当初から、形自体は変わりません。
でも制作するにあたって、ここはもっとこうしたほうがいいなと
試行錯誤を繰り返し、今のこのシルエットに落ち着きました。」
![](https://kinomi-store.com/wp-content/uploads/2019/12/191210_KINOMI_4002-1024x684.jpg)
こうして仕上がった鏡餅は、赤い毛氈と白い敷き紙とともに専用の桐箱へ。
取り出したら、そのまま桐箱の上に載せて飾ることができます。
作家さんの作品を扱うときには少なからず緊張感が伴うものですが、
これならあまり身構えずにすっと飾ることができ、
部屋がお正月の風景に早変わり。
和室だけじゃなく、洋室にもすっとなじむたたずまいです。
![](https://kinomi-store.com/wp-content/uploads/2019/12/191210_KINOMI_4004-1024x684.jpg)
光の当たるところと影になっているところでも輪郭の見え方が異なり、
見る時間帯による変化も楽しめます。
すべて木で作られているということは、
その木自体の経年変化もあるでしょう。
鏡餅は毎年新しいものを誂えるのが一般的ではありますが、
丁寧に作られたひとつの鏡餅とともに
「今年もまたこの季節がやってきたな」と、
迎える新年を重ねる。
そんなお正月の迎え方も素敵だと思います。
木彫りの鏡餅は、季の実オンラインストアでお買い求めいただけます。
文:松倉奈弓
写真:大木賢