「お椀とお盆の中間かな、足して2で割ったようなものだ」
この栃の木の台皿を作った挽物木地師、
横山勝次さんはこう語りました。
富山県庄川町の地域は江戸時代から、
加賀藩へ調達する木材を、
現在の岐阜県飛騨地方の山から庄川を利用して流す、
流木事業が行なわれていました。
庄川町はその貯木場であり、
そこで挽物を生産するようになったのが
「庄川挽物木地」の始まりと伝わっており、
今は国の伝統的工芸品にも指定されています。
使われる木の種類は特に決まっていませんが、
横木を加工するのがひとつの特徴。
木工品をつくるための木地の取り方には横木・縦木と2種類あり、
横木を取るには、まず丸太を縦の板状に切り出し製材とします。
年輪に対して平行に木地を取るため、
同じ木から作られる製品でも、杢目はそれぞれ異なります。
横山さんは、その庄川挽物木地の職人さんです。
同じく挽物木地師であった父の影響もあり、
30歳のときにサラリーマンから職人へ。
76歳の今も作り続けています。
そもそも挽物とは。
ろくろを使って木材を刃物で削り、
お椀やお盆などをはじめとする円形の器物そのもの、
またその技術を指します。
ろくろというと陶芸で使われる印象がありますが、それは縦ろくろ。
木材を加工するときは、横ろくろが使われます。
挽物師はろくろの回転軸と平行に座り、
ろくろに固定された木材を、
キュイーンと大きな音を立てながらものすごいスピードで挽いていきます。
横山さんもこの世界に入った当初は、
まず刃物の使い方を体で覚えることから始めたといいます。
木を削り出す道具である鉋も、大ぶりなものから細かいものまで、
いくつもの種類を使い分けて製品にしていきます。
鉋も使いやすいように自ら火造り。
さらに、ろくろと木材を固定する治具とよばれる道具も、
製品に合わせてひとつひとつ自分で作るということで、
横山さんの工房の壁には似た形のようで
少しずつ異なる道具が所狭しと並んでいました。
さて、この台皿。
素材は栃の木ですが、まず目を引くのはその不思議な模様。
スポルテッドと呼ばれ、
樹木の亀裂などから雨水がしみこみ、
内部にカビや細菌が繁殖して黒く筋状に変色することで出来た模様です。
かつてはスポルテッドがあると
製品にはならないと言われていたそうですが、
今は自然にできるこの模様を面白がる人も多くなってきました。
もちろんすべて偶然の産物なので、ひとつひとつ模様の入り方は異なります。
そして形も特徴的。
一見小ぶりなどんぶりのようですが、内側の深さがありません。
「菓子器に使っても、煮物をよそっても、なんでも。
お椀でも、お盆でもない。
何に使わなきゃということは決まってなくて、
使い手の方が使いたいように使えれば」
好みがさまざまに分かれるこの時代、
ロングランに売れるものは出にくいと横山さんは続けます。
しかし横山さんのものづくりは、
「これを作ろう」と目的をもって作るのではなく、
インスピレーションを受けて自身が面白いと
感じるものを作り続けているとのこと。
何に使うか、それは使う人が考えることであって、
「作り手の自分が決めることではない」とはっきり言い切ります。
たとえば、お椀。
横山さんの使うろくろの横に
ちょこんと置いてあったお椀の中には、
紙やすりがぎゅうぎゅう詰められていました。
お椀イコール汁物をよそう食器、という固定概念があり、
なかなかものを入れるという発想に行きつきませんが、
横山さんは
「そもそもお椀も、この形じゃないといけないという決まりはない。
汁物を飲むものが細長かろうと、なんでもいいでしょ」と話します。
「いろんな人がいて、いろんな使い方をする、それがものだ。
作っているものはみんな道具だから、いかにして使ってやるか。
今日は魚食べようか、お肉を食べようか。
そしてそれをどう調理するかと同じこと」
逆説的ではありますが、使い方を決めていないため、
横山さんが作るものは使い手のニーズの多様性も受け止められると思います。
あなたなら、この台皿になにを載せますか?
横山さんの台皿は、季の実オンラインストアでお買い求めいただけます。
文:松倉奈弓
写真:大木賢