毎年7月にある、井波の一大行事といえば、
井波別院瑞泉寺の太子伝会（たいしでんえ）。
1711年ごろから始まったとされる太子伝会は、
聖徳太子の一生が描かれている掛け軸をもとに
絵解き説法がなされ、普段は公開されていない
聖徳太子二才像が御開帳され、崇めることができます。
太子伝会の期間中、参拝客に御斎（おとき）として
「さばずし」が振る舞われます。
「すし」と名前が付いてはいますが
握り寿司などとはまったく異なる、
自然発酵食品の「なれずし」。
7月末の太子伝会に向けて、
仕込みは毎年5月末に行われます。
その仕込みの様子を見せていただきました。
仕込みは2日間にわけて行われ、
まず初日はサバを3枚におろします。
その数、なんと400尾。
それだけでも圧倒される数なのに
例年であれば、600尾を用意しているそう。
昨年、今年と新型コロナウイルス感染症の影響により
少し数を抑えめにしたそうです。
流れるような包丁さばきで、
次々とおろされていくサバ。
ほかに用意する材料は
お米、
米麹、
塩、
唐辛子、
山椒、
日本酒。
山椒は、境内向かって左側、太子堂の隣にある
宝物殿のあたりに自生しているそう。
摘みたての山椒のいい香りが漂っています。
大きな炊飯器にセットしたお米を炊いて、
本格的なさばずし仕込みは翌日に。
用意するのは大きな四斗樽を3つ。
よく使い込まれた年代ものの木樽です。
瑞泉寺の奥にある台所のさらに奥、
薄暗い蔵の前で仕込みは行われます。
仕込みをするのは、同行（どうぎょう）と呼ばれる
お寺の行事を支える門信徒の方々。
樽の底にまず塩をまき、
前日におろしたサバの切り身を敷き詰め、
その上にごはん、米麴、塩、山椒、唐辛子と重ねます。
それが4～5段になったら、日本酒をふりかけます。
ひとつの樽がいっぱいになるまで、概ね20段ほど重ねたら
40～50kgほどの重石を乗せて、蔵の中へ。
太子伝会までの2か月ほど、じっくり熟成させます。
太子伝会の期間中に購入できる御斎は
今はプラスチック製のパックに入れて
販売されていますが、昭和50年代まで
使われていたという、お弁当箱サイズの
お重を見せてもらいました。
下の段に白飯を敷き詰め、
上段にさばずしの他、なすとお麩の煮物、
福神漬を詰められていたそうです。
御斎の内容は今も変わっていません。
名物ともいえるさばずしは、一食に四切れほど。
添えられる程度のその量に、初めていただいたときには
実は少しびっくりしました。
でも一切れ食べたら、その濃い塩味で
ごはんがどんどん進み、四切れで
十分満足感を得られました。
保存食であるのと同時に、夏場の塩分補給の
役割も果たしていると聞き、深く納得しました。
岐阜県高山市からなど、遠方からでも
毎年さばずしを求めに来る方もいるといいます。
白飯はもちろんお酒にも合う、癖になる味。
瑞泉寺に300年伝わる味、さばずし。
今年の夏はぜひご賞味してみてはいかがでしょう。
文：松倉奈弓
写真：大木賢
===
太子伝会
場所： 真宗大谷派 井波別院瑞泉寺（富山県南砺市井波3050）
期間： 2021年7月22日(木)～26日(月)
※例年より期間を少し短縮して開催されます。最新情報は、瑞泉寺の公式HPなどでご確認ください。